タナトフォリック骨異形成症1型・2型の診断基準と重症度分類
厚生労働科学研究
胎児・新生児骨系統疾患の診断と予後に関する研究班
致死性骨異形成症の診断と予後に関する研究班
第2版:平成27年2月10日
<診断基準>
本診断基準によりタナトフォリック骨異形成症1型または2型の診断を確定する。それぞれの項目については下の解説を参照すること。
A.症状
1)著明な四肢の短縮
2)著明な胸郭低形成による呼吸障害
3)巨大頭蓋(または相対的巨大頭蓋)
B.出生時の単純エックス線画像所見(正面・側面)
1)四肢(特に大腿骨と上腕骨)長管骨の著明な短縮と特有の骨幹端変形
2)肋骨の短縮による胸郭低形成
3)巨大頭蓋(または相対的巨大頭蓋)と頭蓋底短縮
4)著明な椎体の扁平化
5)方形骨盤 (腸骨の低形成)
C.遺伝子検査
線維芽細胞増殖因子受容体3(fibroblast growth factor receptor 3 : FGFR3)遺伝子のアミノ酸変異を生じる点突然変異
D.診断の確定
次の1)と2)の両方を満たせば診断が確定する。また1)は満たすが、2)は満たさないまたは明確ではない場合は、1)と3)の両方を満たせば診断が確定する。
1) 「A.症状」の項目1)~3)のすべてを満たすこと。
2) 「B.出生時の単純エックス線画像所見」の項目1)~5)のすべてを満たすこと。
3) 「C.遺伝子検査」でいずれかの変異が同定されること。
<解説>
A.症状
1)著明な四肢の短縮は、特に近位肢節(大腿骨や上腕骨)にみられ、低身長となるが、体幹の短縮は軽度またはほぼ正常である。骨の短縮に対して、軟部組織は正常に発育するため、四肢で長軸と直角方向に皮膚の皺襞が生じる。
2)著明な胸郭低形成により呼吸障害や腹部膨隆を示す。胎児期には嚥下困難による羊水過多がほぼ必発で、しばしば胎児水腫を呈する。多くは出生直後から呼吸管理が必要で、呼吸管理を行わない場合は、呼吸不全により新生児死亡に至ることが多い。
3)巨大頭蓋は頭蓋冠の巨大化によるもので、顔面中央部は比較的低形成となり、前頭部突出や鼻根部陥凹(鞍鼻)と中央部の平坦な顔貌を示す。なお、相対的巨大頭蓋(relative
macrocephaly)とは実際には頭蓋の大きさは標準値と変わらないか軽度の拡大であるが、胸郭低形成、四肢の長管骨の著明な短縮と椎体の扁平化により生じた低身長など、四肢体幹が小さくなるため、頭蓋が相対的に大きく見えることを意味する。
4)その他の症状としては筋緊張の低下、大泉門開大、眼球突出などがある。短管骨も短縮するので短指趾症となり、三尖手(trident hand)を示すこともある。また、加齢により皮膚の黒色表皮腫が出現することが多い。
B.出生時の単純エックス線画像所見(正面・側面)
エックス線画像では骨格異常の全体パターンの認識が重要であり、上記の個々の所見の同定にあたっては、診断経験の豊富な医師の読影意見や成書の図譜等を参照し、異常所見を診断することが必須である。なお、これらのエックス線画像所見の診断は出生時(出生後満28日未満の新生児期)に撮影された画像を対象とする。
1)四肢(特に大腿骨と上腕骨)長管骨は著明な短縮を示す。しかし四肢長管骨の短縮の程度を客観的に評価するための出生後の身体計測やエックス線的計測値は報告されていない。ひとつの指標としては出生前の超音波検査の胎児大腿骨長(femur length:
FL)計測値で、少なくとも妊娠22週以降28週未満では4SD以上、妊娠28週以降は6SD以上の短縮がみられる。出生後の身体計測やエックス線的計測においてもこれらの値を指標としうる。
また、特有の骨幹端変形があり、長管骨の骨幹端は軽度不整と骨幹方向への杯状陥凹(cupping)、軽度拡大(flaring またはsplaying)を示し、骨幹端縁は角状突起様(spur)となる。これらの所見により近位端骨幹端には骨透亮像を認める。1型では大腿骨の彎曲が著明で電話受話器様変形(French telephone receiver
femur)を示す。2型では大腿骨は直状で短縮の程度は1型よりやや軽度のことが多く、彎曲は認めないかきわめて軽度である。
2)肋骨の短縮により胸郭は低形成となりベル状胸郭となる。
3)巨大頭蓋と頭蓋底短縮のために、前頭部が突出し、顔面中央部は比較的低形成である。2型では側頭部の膨隆により頭蓋骨のクローバー葉様変形(cloverleaf skull)を認めることが多いが、これは1型でも認めることがあり、また2型でも認めないことがあるので、1型と2型の確定には大腿骨の所見が優先される。また、大後頭孔の狭窄による脳幹圧迫症状を呈することが多い。
4)著明な椎体の扁平化により椎間腔は拡大し、椎体は正面像ではH字またはU字型を示し、側面像では前縁がやや丸みを帯びる。正面像での腰椎椎弓根間距離の狭小化は診断のための客観的な指標であるが、在胎週の早い例では目立たないこともある。
5)方形骨盤(腸骨の低形成)は骨盤骨の所見として重要である。腸骨は低形成で垂直方向に短縮し、横径は相対的に拡大する。腸骨翼は正常の扇型を示さず方型である。坐骨切痕は狭く短縮し、臼蓋は水平化している。Y軟骨部分の陥凹骨突起と組み合わせは三尖臼蓋として観察される。
C.遺伝子検査
遺伝子検査は確定診断としての意義が大きい。
1)1型:線維芽細胞増殖因子受容体3(fibroblast growth factor receptor 3 : FGFR3)遺伝子の点突然変異によりアミノ酸の置換や終止コドンへの置換が生じることが原因である。アミノ酸の置換(c.742C>T ⇒ Arg248Cys、c746C>G ⇒ Ser249Cys、c1108G>T⇒ Gly370Cys、c1111A>T
⇒ Ser371Cys、c1118A>G ⇒ Tyr373Cys、c1949A>T ⇒ Lys650Met)や、終止コドンのアミノ酸への置換(c.2419T>G ⇒ stop807Gly、c2419T>Cまたはc.2419T>A ⇒ stop807Arg、c.2421A>Tまたはc.2421A>C ⇒stop807Cys、c2420G>T
⇒ stop807Leu、c.2421A>G ⇒ stop807Trp)などが報告されている。日本人ではArg248Cysが1型の約60~70%にみられ最も多く、次いでTry373Cysが20~30%に見られる。それ以外の変異や既知の変異が検出されないものが、~10%程度存在する。
2)2型:全例でFGFR3遺伝子のc.1948A>G ⇒ Lys650Glu変異が報告されている。
3)遺伝子変異については新たな変異が報告される可能性があるので、必ずしも前項の変異に限定されるものではないが、アミノ酸変異を伴わない遺伝子変異では疾患原因とはならない。こうした遺伝子変異の情報についてはウェブ上のGeneReviews® (米国NCBIのサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/の中のデータベース)などの記載を参考にする。
4)理論上は常染色体優性遺伝形式をとるが、出生後の新生児期から乳幼児期に死亡することが多く、ほとんどは妊孕性のある年齢に至らないことや、その年齢に至ったとしても妊孕性は期待できないことから、実際の発症は全例が新生突然変異である。従って発症頻度は出生児(死産を含む)の1/20,000~1/50,000程度と稀である。
<重症度分類>
診断基準自体を重症度分類等とし、診断基準を満たすものをすべて対象(重症)とする。